就業規則の不利益変更|全員の同意は必要?同意なしで変えられる条件
※更新日:2026年9月19日 | 読了目安:約11分
手当を見直したい。休日や勤務時間の決まりを、いまの働き方に合わせて変えたい。
そう考えて調べると、「従業員全員の同意がないと不利益変更はできない」という話にぶつかります。
結論からお伝えすると、道は2つです。
一人ひとりの同意で変える道と、変更後の規則を周知したうえで「合理的な変更」として変える道。全員の同意は、法律上の要件ではありません。
まずは、変えたい内容が賃金や退職金に関わるものかどうかを分けるところから始めてください。そこで厳しさが変わります。
この記事では、2つの道の分かれ目、自分の変更がどれに当たるか、そろえておくもの、そして間違えやすい思い込みを順番に見ていきます。
この記事の執筆者
はしざき社会保険労務士・行政書士事務所 代表
橋崎 正
(社会保険労務士 / 行政書士 / 1級FP技能士)
鳥取市出身。宿毛市在住。
こうち生活協同組合に30年以上勤務し、配送業務および共済・保険業務に従事。
累計2,500件を超える相談対応の経験を持つ。
社会保険労務士・行政書士・1級FP技能士の3つの資格を持つ。
障害年金や労務の手続き、相続・遺言の書類作成、その後のお金の見通しまで、
相談先を分けずに、ひとつの窓口で対応できることを強みとしている。
高知県全域からの相談に対応。
「困ったときに気軽に相談できる存在でありたい」を理念に、
制度の説明にとどまらず、生活・仕事・事業に関する不安を整理し、
実務に即した支援を行っている。
この記事の要点
- 就業規則を従業員に不利な方向へ変えるには、従業員との合意が原則です(労働契約法第9条)。
- ただし、変更後の規則を周知し、変更が合理的なら、同意がなくても変更後の規則が労働条件になります(同法第10条)。全員の同意は要件ではありません。
- 賃金・退職金に関わる変更だけは基準が厳しく、「高度の必要性」が求められます。
- では、自分の変更はどちらの道で、何をそろえれば通るのか。3章の分岐で確かめられます。
1. 結論:不利益変更は「同意」か「合理性+周知」のどちらかで通る
「不利益変更」とは、就業規則を変えることで、従業員の労働条件をいまより不利にすることです。
手当の廃止や減額、休日を減らす、勤務時間を延ばす、退職金の水準を下げる、といった変更がこれにあたります。
労働契約法第9条は、会社が従業員と合意することなく、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変えることはできない、と定めています。
ただし同じ条文に「次条の場合は、この限りでない」とあり、第10条が例外を決めています。
変更後の就業規則を従業員に周知させ、かつ、その変更が合理的なものであるときは、労働条件は変更後の就業規則によるものとする。これが第10条の内容です。
つまり、同意を集めて変える道と、周知と合理性で変える道の2つがあります。
「全員の同意が要る」という話は、原則の部分だけを切り取ったものです。
例外の道を知らないまま、変更をあきらめている会社は少なくありません。
2. 判断の分かれ目:2つの道と、賃金・退職金だけ厳しい理由
道1:一人ひとりの同意で変える
労働条件は、会社と従業員の合意で変えられます(労働契約法第8条)。
不利益な変更でも、従業員が納得して同意すれば、その従業員との間では変更が成立します。
気をつけたいのは、同意書の署名があるだけでは、同意があったと認められない場合があることです。
最高裁は2016年の判決(山梨県民信用組合事件)で、賃金や退職金の不利益変更への同意は、署名の有無だけでなく、不利益の内容と程度、同意に至った経緯、事前の情報提供や説明の内容に照らして、従業員の自由な意思にもとづくと認められる合理的な理由が客観的にあるかどうかで判断する、としました。
言い換えると、何がどれだけ不利になるかを説明せずに集めた署名は、あとから同意と認められないおそれがあります。
同意書を作るなら、少なくとも次の3つを書いておきます。
変更の内容、その変更で従業員に生じる不利益の程度、説明を受けて理解したうえで同意する旨、の3つです。
道2:同意がなくても、周知と合理性で変える
同意が取れない従業員がいても、第10条の要件を満たせば、変更後の就業規則がその従業員の労働条件になります。
要件は2つです。
変更後の規則を周知していること、そして変更が合理的であること。
合理的かどうかは、次の4つの事情を中心に、変更に関わる事情を総合して判断されます。
合理性の判断で考慮される4つの事情(労働契約法第10条)
| 事情 | 見られること |
|---|---|
| 労働者の受ける不利益の程度 | 一人ひとりにとって、何がどれだけ減るのか。一部の人にだけ偏っていないか |
| 労働条件の変更の必要性 | 会社として、なぜいま変える必要があるのか。数字で示せるか |
| 変更後の就業規則の内容の相当性 | 変更後の内容が行き過ぎていないか。経過措置や代償措置があるか。世間の水準と比べてどうか |
| 労働組合等との交渉の状況 | 従業員代表や従業員と、説明と話し合いをどう重ねたか |
この道を使う場合、変更が合理的であることを証明する責任は会社の側にあります。
あとから争いになったとき、会社が資料で示せなければ負けます。
なお、意見聴取と労働基準監督署への届出は、この4つとは別の手続きです。
順番と進め方は就業規則の変更手続き|意見書・届出・周知の順番で解説しています。
賃金・退職金は「高度の必要性」が要る
賃金や退職金のように、従業員にとって重要な権利に実質的な不利益を及ぼす変更は、基準が一段厳しくなります。
最高裁は1988年の判決(大曲市農業協同組合事件)で、こうした変更は「高度の必要性に基づいた合理的な内容」である場合に効力が生じる、としました。
要するに、手当の名称を整理する程度の変更と、基本給や退職金を下げる変更とでは、求められる理由の重さが違います。
3. 自分の変更はどれに当たるか(4つの分岐と、そろえるもの)
変えたい内容を、次の4つのどれかに当てはめてください。
どの分岐でも、変更後の規則の周知と、意見聴取・届出の手続きは共通して要ります。
分岐で変わるのは「そろえるもの」の重さです。
4つの分岐と、そろえるもの
| あなたの変更は | 通る道 | そろえるもの |
|---|---|---|
| ① 対象の従業員全員から、説明のうえで同意が取れる | 道1(同意) | 説明の記録(配った資料・日付・質疑)、3つのことを書いた同意書。あわせて就業規則も変えて周知する |
| ② 同意が取れない人がいるが、不利益は小さい(手当の整理、始業時刻の30分程度の変更など) | 道2(合理性) | 変える必要性の説明、変更前後の比較表、説明会の記録。不利益が小さいことを一人ずつ試算して示す |
| ③ 賃金・退職金・大幅な労働時間の変更 | 道2+高度の必要性 | 決算や売上の推移など必要性を示す資料、経過措置(段階的に下げる)や代償措置(別の手当・休日の増加)、複数回の説明と話し合いの記録 |
| ④ 一部の人(特定の年齢層・職種)だけに不利益が偏る | 道2でも通りにくい | 偏りを和らげる経過措置が無いと、相当性を欠くと判断されやすい。設計を見直すか、③と同じ資料をそろえる |
②と③の境目は、金額の大小だけでは決まりません。
従業員の生活にどれだけ響くかで見られます。
迷ったら、③として資料をそろえるほうが安全です。必要性を示す資料と経過措置は、あとから足せません。変更を決める前に用意します。
高知県で相談する場合
就業規則の変更手続きそのものは、所轄の労働基準監督署へ確かめられます。
宿毛市、四万十市、土佐清水市、黒潮町、大月町、三原村は四万十労働基準監督署(四万十市右山五月町3-12、電話0880-35-3148)の管轄で、同じ建物に総合労働相談コーナーがあります。
ただし、労働契約法は労働基準監督署が監督や指導をする法律ではありません。
変更が合理的かどうかを、労働基準監督署が判断してくれるわけではない点は押さえておいてください。
当事務所では、変更の内容が4つの分岐のどれに当たるかの整理と、そろえる資料の準備を、就業規則の作成・見直しのサポートとして承っています。
4. よくある思い込みチェック
相談の入口で多い思い込みを5つ並べました。
当てはまるものがあれば、その前提から見直してください。
-
従業員全員の同意がないと、就業規則は不利に変えられない
原則は合意ですが、変更後の規則を周知し、変更が合理的なら、同意がなくても変更後の規則が労働条件になります(労働契約法第10条)
-
従業員代表の意見書があれば、不利益変更も通る
意見書は労働基準法の届出に添える手続きです。第10条の効力の要件ではなく、合理性の判断で「考慮され得る」にとどまります
-
同意書にサインをもらえば、あとから争われない
署名があっても、不利益の程度や事前の説明の内容に照らして「自由な意思」と認められなければ、同意とは扱われません
-
労働基準監督署が届出を受理したから、変更は有効
受理は書類の手続きです。労働契約法は労働基準監督署の監督指導の対象外で、合理性の判断は裁判所が行います
-
賃金や退職金も、ほかの条件と同じ基準で変えられる
重要な権利に実質的な不利益を及ぼす変更には「高度の必要性」が求められます
5. 無効になりやすい進め方(判例が示した3つの線)
労働契約法第10条は、それまでの最高裁の判例をもとに作られた条文です。
どこで無効になるかは、判例が3つの線を引いています。
線1:必要性・不利益・相当性・交渉を総合して見る(第四銀行事件・1997年)
定年延長にともなう賃金の減額が争われ、最高裁は、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、代償措置、交渉の経緯など7つの事情を総合して合理性を判断するとし、この事件では変更を有効としました。
第10条の4つの事情は、この7つを整理したものです。
線2:一部の人だけに大きな不利益を負わせると、経過措置が無い限り通らない(みちのく銀行事件・2000年)
賃金体系の変更で特定の層の行員だけが大幅な不利益を受けた事案で、最高裁は、そうした従業員の不利益を和らげる経過措置などの救済がないままでは相当性を欠く、としました。
従業員の多数を占める労働組合が同意していても、この判断は変わりませんでした。
線3:説明のない同意書は、同意と認められない(山梨県民信用組合事件・2016年)
合併にともなう退職金の引き下げに従業員が同意書へ署名していた事案で、最高裁は、署名の有無だけでなく、不利益の内容と程度、経緯、事前の情報提供や説明の内容から、自由な意思にもとづく同意かを判断すべきだとしました。
3つの判例の骨子は、厚生労働省「確かめよう労働条件」の裁判例と、厚生労働省「労働契約法のあらまし」(PDF)の14〜19ページで読めます。
6. よくある質問
Q. 不利益変更に罰則はありますか
労働契約法に罰則はありません。労働基準法のように労働基準監督署が取り締まる法律ではなく、会社と従業員の間の民事のルールです。ただし、合理性を欠く変更は労働契約の内容にならないため、変更前の条件との差額を請求されるなど、あとから争いになります。
Q. 1人だけ同意しない従業員がいます。その人だけ変更できないのですか
同意しない従業員にも、変更後の規則を周知し、変更が合理的であれば、変更後の就業規則が適用されます(労働契約法第10条)。逆に、合理性を欠く変更は、同意した従業員以外には効力がありません。1人が反対しているという事実は、交渉の状況として合理性の判断に影響します。
Q. 休日を減らす、手当を廃止するのは不利益変更にあたりますか
あたります。年間休日の減少、手当の廃止や減額、始業・終業時刻の変更、退職金の水準の引き下げは、いずれも従業員にとって不利益な労働条件の変更です。不利益の大きさによって、そろえる資料の重さが変わります。
Q. 労働組合がある会社の場合は、どう変わりますか
労働組合と労働協約を結んで変える方法があります。労働協約は就業規則より優先されます。ただし、組合員でない従業員や、少数組合の組合員には、原則として就業規則の変更(第10条)の要件で判断されます。組合との交渉の経緯は、合理性の判断で重く見られます。
Q. 変更後の規則を、さかのぼって適用できますか
第10条の効力が生じるのは、変更が合理的であることを前提に、変更後の規則を周知したと認められる時点です。周知より前の期間にさかのぼって不利な条件を適用することは、想定されていません。
Q. 従業員から「これは不利益変更だ」と言われました。どう対応すればよいですか
変更の必要性、不利益の程度、経過措置の有無を、資料をもとにもう一度説明してください。話し合いで解決しないときは、四万十労働基準監督署内の総合労働相談コーナー(電話0880-35-3148)などで、会社側も相談できます。個別の争いになった場合の判断は、最終的には裁判所が行います。
7. まとめ:あなたの場合の次の一歩
不利益変更は、同意で変える道と、周知と合理性で変える道の2つです。
全員の同意は要件ではありません。
あなたの場合の次の一歩
- 全員から説明のうえで同意が取れるなら、説明の記録と3つのことを書いた同意書をそろえ、就業規則も変えて周知する
- 同意が取れない人がいるが不利益は小さいなら、必要性の説明と変更前後の比較表、説明会の記録をそろえる
- 賃金・退職金・大幅な労働時間の変更なら、必要性を示す数字の資料と経過措置・代償措置を、変更を決める前に用意する
- 一部の人だけに不利益が偏るなら、設計を見直す。偏りを和らげる経過措置が無いと通りにくい
ここまでが、労働契約法と最高裁の判例が示している線です。
そのうえで、合理的かどうかは変更の中身と会社ごとの事情によって判断が分かれます。
変更前の準備が、あとからの争いを防ぐいちばん確かな方法です。
当事務所では、社会保険労務士として、変更の内容がどの分岐に当たるかの整理から、必要性を示す資料と経過措置の設計、意見聴取・届出・周知までを、ひとつの流れでお手伝いしています。
「この変更は通るのか」という段階からご相談いただけます。