就業規則の周知方法|金庫保管や口頭説明で足りる?社労士が解説
※更新日:2026年9月16日 | 読了目安:約8分
こんにちは、はしざき社会保険労務士・行政書士事務所の橋崎です。
就業規則は作ってある。事務所の棚や社長室にしまってあって、見たいと言われたら見せている。
それで「周知している」ことになるのだろうか。
結論からお伝えすると、就業規則の周知とは、従業員が見たいときにいつでも内容を確かめられる状態にしておくことです。
しまってあるだけ、口で説明しただけでは、周知したことにならないおそれがあります。
まずは、いまの就業規則が「どこにあって、誰が、どうやって見られるか」を思い浮かべてみてください。
この記事では、法律が定める周知の方法、会社がよく思い込んでいる5つの点、そして周知していないと何が起きるのかを、順番に見ていきます。
この記事の執筆者
はしざき社会保険労務士・行政書士事務所 代表
橋崎 正
(社会保険労務士 / 行政書士 / 1級FP技能士)
鳥取市出身。宿毛市在住。
こうち生活協同組合に30年以上勤務し、配送業務および共済・保険業務に従事。
累計2,500件を超える相談対応の経験を持つ。
社会保険労務士・行政書士・1級FP技能士の3つの資格を持つ。
障害年金や労務の手続き、相続・遺言の書類作成、その後のお金の見通しまで、
相談先を分けずに、ひとつの窓口で対応できることを強みとしている。
高知県全域からの相談に対応。
「困ったときに気軽に相談できる存在でありたい」を理念に、
制度の説明にとどまらず、生活・仕事・事業に関する不安を整理し、
実務に即した支援を行っている。
この記事の要点
- 周知とは、従業員が知ろうと思えばいつでも内容を知ることができる状態にしておくことです。
- 方法は3つ。職場への掲示・備え付け、書面の交付、パソコンなどでいつでも見られるようにすることです。
- 労働基準監督署への届出と、従業員への周知は別の義務です。
- そして、周知していない就業規則は、注意や懲戒の根拠として使えなくなるおそれがあります。
1. 就業規則の「周知」とは、いつでも見られる状態にしておくこと
就業規則の周知とは、従業員が知ろうと思えばいつでも、就業規則があることと、その中身を知ることができる状態にしておくことです。
厚生労働省は、労働契約法の通達でこのように説明しています。
従業員が実際に読んだかどうかは問われません。
問われるのは、読みたいと思ったときに、誰にも頼まずに読める状態になっているかどうかです。
社内の連絡事項にたとえると、全員が見る掲示板に貼ってあるのか、担当者の机の引き出しにしまってあるのか、の違いです。
引き出しの中の連絡事項は、存在していても、周りの人には伝わっていません。
物差しは2つある(罰則の話と、効力の話)
周知には、法律の物差しが2つあります。
ひとつは労働基準法第106条です。
会社に周知の義務を課し、そのやり方を決めています。違反すると30万円以下の罰金の対象になります。
もうひとつは労働契約法第7条です。
周知していた就業規則であれば、その内容が従業員との労働契約の中身になる、と定めています。
こちらは方法に限らず、実質的に周知されていたかで判断されます。
要するに、罰則を避けるための物差しと、就業規則を「使える」ようにするための物差しの2つがある、ということです。
2. 法律が決めている周知の方法は3つ
労働基準法第106条のやり方は、労働基準法施行規則第52条の2で、次の3つと決まっています。
どれか1つで足ります。表の右側は、形は整っていても足りなくなりやすい例です。
周知の3つの方法と、足りなくなりやすい例
| 方法 | 足りなくなりやすい例 |
|---|---|
| 職場の見やすい場所へ掲示する、または備え付ける | 社長室や鍵のかかる棚にあり、従業員が自由に手に取れない |
| 従業員へ書面を交付する | 一部の従業員にだけ配っている、変更後の版を配っていない |
| パソコンなどに記録し、職場でいつでも内容を確認できる機器を置く | 管理者のパソコンにしか入っていない、従業員が開き方を知らない |
3つとも、従業員が自分の意思で、いつでも中身を確かめられることが共通しています。
口頭での説明は、この3つに含まれていません。
3. うちは周知できている? よくある思い込み5つ
会社側でよく見られる受け止め方を、条文や通達と突き合わせて並べました。
ひとつでも心当たりがあれば、置き方や伝え方を見直す場面かもしれません。
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大切なものなので金庫にしまい、見たいと言われたら見せている
周知は、従業員が知ろうと思えばいつでも内容を知ることができる状態をいいます。頼まないと見られない形は、この状態から外れるおそれがあります
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入社のときに口頭で説明したから、みんな知っている
法律が定める周知の方法に、口頭での説明は含まれていません。説明に加えて、いつでも確認できる形にしておく必要があります
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労働基準監督署に届け出たから、周知も済んでいる
届出と周知は別の義務です。届け出ても、従業員が見られなければ周知したことにはなりません
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事務所のパソコンに入っているから大丈夫
パソコンで周知する場合は、職場で従業員がいつでも内容を確認できる機器を置く必要があります。管理者しか開けないパソコンでは足りません
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従業員が10人未満だから、周知は関係ない
就業規則の作成と届出の義務はありません。ただ、就業規則を作ったのであれば、周知していないと労働条件の根拠として使えなくなるおそれがあります
1つ目は、就業規則を大切に扱おうとした結果、かえって従業員から見えなくなっている形です。
4. 周知していないと、何が起きるか
周知していないときに起きることは、2つに分けられます。
ひとつは、労働基準法第106条違反として、30万円以下の罰金の対象になることです。
ただ、会社にとって影響が大きいのは、もうひとつのほうです。
規則を根拠にした注意や懲戒ができなくなる
就業規則は、会社が従業員に注意や処分をするときの根拠になります。
最高裁判所は、懲戒をするには就業規則に懲戒の種類と理由を定めておく必要があり、その就業規則が効力を持つには従業員に周知させる手続きがとられていることが必要だ、と判断しています(平成15年10月10日判決)。
つまり、規則に書いてあっても、周知していなければ「その規則は使えない」と言われるおそれがあります。
問題になるのは、規則を作ったときではありません。
従業員とのあいだで何かが起き、会社が規則を持ち出したときに、初めて表に出てきます。
労働条件についても同じです。
労働契約法第7条は、就業規則を周知させていた場合に、その内容が労働契約の中身になると定めています。
周知していない就業規則では、手当や休みのルールを「規則に書いてあるから」と説明することが難しくなります。
就業規則そのものを長く見直していない場合は、置き方と一緒に中身も確かめておくと安心です。当事務所で対応できる範囲は就業規則の作成・見直しのページにまとめています。
5. 誰に・いつ周知するか
周知の相手は、その事業場で働く従業員です。
そして、周知が必要になるのは、作ったときだけではありません。
パート・アルバイトも対象
正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員も周知の相手に含まれます。
正社員にだけ冊子を配り、パートの方には見せていない、という形は避けてください。
パート用の就業規則を別に作っている場合も、その規則を対象の従業員が見られるようにしておきます。
新しく雇う人には、働き始める前に
厚生労働省の通達は、新しく労働契約を結ぶ従業員には、あらかじめ周知しておくことを求めています。
契約を結ぶのと同時でもよいとされています。
入社手続きの書類と一緒に、就業規則の置き場所と見方を伝えておくと確実です。
就業規則を変えたときも、変更後の内容を、あらためて周知する必要があります。
古い版が棚に残ったまま、新しい版を事務所のパソコンにだけ入れている、という状態には注意してください。
6. よくある質問
Q. 周知していない就業規則は有効ですか
労働条件として認められないおそれがあります。労働契約法第7条は、就業規則を従業員に周知させていた場合に、その内容が労働契約の中身になると定めています。最高裁判所も、懲戒の根拠となる就業規則が効力を持つには、従業員に周知させる手続きが必要だと判断しています。
Q. 従業員が10人未満の会社でも、周知は必要ですか
就業規則を作ったのであれば、周知しておくべきです。常時10人未満の事業場には就業規則の作成と届出の義務はありませんが、作った就業規則を労働条件の根拠として使うには、労働契約法第7条の周知が関わります。自社の扱いに迷う場合は、所轄の労働基準監督署へご確認ください。
Q. 就業規則を変更したときも、あらためて周知が必要ですか
必要です。労働契約法第10条は、変更後の就業規則を従業員に周知させ、かつ変更が合理的なものであるときに、労働条件が変更後の就業規則によると定めています。届出を済ませたかどうかとは別に、変更後の版をいつでも確認できる状態にしてください。
Q. 意見書も従業員に周知しなければなりませんか
労働基準法第106条が周知の対象として挙げているのは、就業規則のほか、36協定などの労使協定や労使委員会の決議で、意見書の名前はありません。自社の扱いに迷う場合は、所轄の労働基準監督署へご確認ください。
Q. 周知義務に違反すると、罰則はありますか
あります。労働基準法第106条に違反した場合、同法第120条により30万円以下の罰金の対象になります。ただし会社にとっては、周知していない就業規則を注意や懲戒の根拠として使えなくなるおそれのほうが、影響は大きいといえます。
7. まとめ:「置いてある」ではなく「いつでも見られる」か
就業規則の周知は、特別な手続きではありません。
従業員が、誰にも頼まずに、いつでも中身を確かめられること。この1点が満たされていれば足ります。
いまの周知を確かめる3つの問い
- 就業規則は、従業員が自由に手に取れる場所にあるか
- パートやアルバイトを含め、全員が見方を知っているか
- 置いてあるのは、最新の版か
ここまでが、法令と通達が求めている考え方です。そのうえで、事業場の人数や働き方によって判断が分かれる場面もあります。
3つのうち1つでも「いいえ」があれば、置き方を少し変えるだけで整えられます。
当事務所では、就業規則の作成と見直し、36協定をはじめとする労使協定の手続き、労務相談をお引き受けしています。
いまの置き方で足りているかを確かめておきたい場面がありましたら、お気軽にお声がけください。