自筆証書遺言は法務局に預けられる?保管制度の費用・デメリットを行政書士が解説
こんにちは、はしざき社会保険労務士・行政書士事務所の橋崎です。
遺言書のご相談では、
「自分で書いた遺言書を、法務局で預かってもらえると聞いたのですが本当ですか」
「保管してもらうと、家庭裁判所の検認は必要なくなるのでしょうか」
「費用はいくらかかりますか。宿毛からだとどこの法務局に行けばよいですか」
といったご質問をいただくことがあります。
自筆証書遺言書保管制度は、令和2年7月10日から始まった、法務局(遺言書保管所)が自筆の遺言書を預かってくれる制度です。自宅で保管する場合の「紛失・改ざん・見つけてもらえない」といった不安を軽くできる一方、内容の相談には応じてもらえないなど、知っておきたい注意点もあります。
この記事では、制度の基本、メリットと注意点、手続きの流れと費用、令和8年(2026年)3月の省令改正で変わった点、そして高知県幡多地域(宿毛市・四万十市・土佐清水市など)の方が利用する場合の窓口まで、行政書士の視点から整理して解説します。
この記事の執筆者
はしざき社会保険労務士・行政書士事務所 代表
橋崎 正
(社会保険労務士 / 行政書士 / 1級FP技能士)
鳥取市出身。宿毛市在住。
こうち生活協同組合に30年以上勤務し、配送業務および共済・保険業務に従事。
累計2,500件を超える相談対応の経験を持つ。
社会保険労務士・行政書士・1級FP技能士の3つの資格を持つ。
障害年金や労務の手続き、相続・遺言の書類作成、その後のお金の見通しまで、
相談先を分けずに、ひとつの窓口で対応できることを強みとしている。
高知県全域からの相談に対応。
「困ったときに気軽に相談できる存在でありたい」を理念に、
制度の説明にとどまらず、生活・仕事・事業に関する不安を整理し、
実務に即した支援を行っている。
この記事で分かること
- 自筆証書遺言書保管制度とはどのような制度か
- 法務局に預けると検認が不要になる理由
- 制度を利用するメリットと、知っておきたい注意点
- 手続きの流れ・持ち物・費用(手数料)の目安
- 令和8年3月の省令改正で使いやすくなった点
- 高知県幡多地域の方が利用する場合の窓口と予約方法
1. 自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言書保管制度とは、遺言者ご本人が手書きで作成した自筆証書遺言を、法務局(遺言書保管所)が原本と画像データで預かる制度です。令和2年(2020年)7月10日に始まりました。
それまで自筆証書遺言は、自宅の金庫や仏壇、貸金庫などご自身で保管するしかなく、次のような心配がつきまとっていました。保管制度は、この部分を公的な仕組みで補うものです。
自宅で保管する場合に起こりやすいこと
- 遺言書そのものを紛失してしまう、置き場所を忘れてしまう
- 相続が始まっても家族に見つけてもらえないまま手続きが進んでしまう
- 内容に不満のある方によって破棄・改ざんされるおそれがある
- 家庭裁判所の検認手続きが必要となり、相続人の負担が増える
なお、この制度で預かってもらえるのは民法第968条の要件を満たした自筆証書遺言に限られます。公正証書遺言や秘密証書遺言は対象外です。
2. まず押さえたい自筆証書遺言の要件
保管制度を利用するかどうかにかかわらず、自筆証書遺言には民法上の要件があります。要件を満たしていない遺言書は、そもそも法務局で預かってもらえません。
民法第968条で定められた要件
- 遺言書の全文・作成日付・遺言者の氏名を、遺言者ご本人が自書し、押印する
- 日付は「令和8年3月吉日」のような書き方は不可。年月日を特定できるように書く
- 財産目録はパソコンで作成したり、登記事項証明書や通帳のコピーを添付する方法でもよい。ただし目録の全ページに署名押印が必要
- 書き間違いの訂正や書き足しは、場所を示したうえで訂正・追加した旨を付記して署名し、その箇所に押印する
訂正のルールは細かく、少しでも外れると効力が争われる原因になります。書き損じたときは、訂正するより新しい用紙に書き直すほうが確実です。
3. 法務局に預けるメリット
保管制度には、主に次のようなメリットがあるとされています。
制度を利用する主なメリット
- 紛失・改ざんの心配が小さくなる:原本を法務局が保管し、画像データも記録されます
- 形式面のチェックを受けられる:民法上の要件と制度上の様式を満たしているかを確認したうえで預かってもらえます
- 家庭裁判所の検認が不要になる:自宅保管の自筆証書遺言では必要な検認手続きが、この制度を利用した遺言書では不要とされています
- 家族に遺言書の存在が伝わる:相続人等の一人が証明書の交付を受けるなどした際に、他の相続人へ通知が届きます(関係遺言書保管通知)
- 亡くなったことが分かった時点で通知を出してもらえる:あらかじめ指定した方に通知が届く「指定者通知」を利用できます(令和5年10月2日から3名まで指定可能)
- 費用が比較的抑えられる:保管の申請手数料は遺言書1通につき3,900円です
特に検認が不要になる点は、残されるご家族の負担に直結します。検認は家庭裁判所に申立てをし、相続人に期日が通知され、開封・確認が行われる手続きで、相続手続きの入口で時間がかかる要因になりがちです。
4. 知っておきたい注意点・デメリット
一方で、制度の性質上できないこともあります。ここを誤解したまま利用すると、「預けたのに争いになった」という結果になりかねません。
利用前に押さえておきたい注意点
- 内容の相談には応じてもらえない:法務局が確認するのは形式面のみです。誰に何を残すかという中身が適切かどうかは審査されません
- 遺言者本人が窓口に行く必要がある:代理人による申請や郵送による申請はできません。ご入院中など外出が難しい場合は利用しづらい面があります
- 予約が必須:申請・閲覧などの手続きには事前予約が必要です
- 様式のルールが細かい:用紙のサイズや余白のルールを外れていると、その場で書き直しになることがあります
- 内容を書き直したいときは撤回から:預けた遺言書の内容を変えたい場合は、いったん保管の申請を撤回して返還を受け、書き直したうえで改めて申請する流れが案内されています
- 保管証は再発行されない:手続き後に交付される保管証は再発行できないため、保管には注意が必要です
「法務局が預かってくれた=内容にお墨付きをもらえた」ではありません。遺留分や財産の書き方によっては、相続開始後に争いが生じる可能性があります。内容面は、あらかじめ専門家にご相談いただくことをおすすめします。
5. 保管の申請手続きの流れ
保管の申請は、次のような流れで進みます。
手続きの6ステップ
- STEP1:自筆証書遺言を作成する(内容はご本人が決め、全文を自書します)
- STEP2:申請する遺言書保管所を決める(住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局)
- STEP3:保管申請書を作成する(法務省ホームページからダウンロードでき、窓口でも入手できます)
- STEP4:法務局手続案内予約サービスや電話で予約を取る
- STEP5:予約日時に遺言者本人が来庁し、申請する
- STEP6:保管証を受け取る(氏名・生年月日・保管所の名称・保管番号が記載されています)
当日の持ち物
- 遺言書(ホチキス止めはせず、封筒も不要。バラバラのまま持参します)
- あらかじめ作成した保管申請書
- 本籍・筆頭者の記載があり、マイナンバーの記載のない住民票の写しなど
- 顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど。有効期限内のもの)
- 手数料3,900円分の収入印紙
保管証は、ご家族に「遺言書を法務局に預けている」と伝えるときにも役立ちます。写しをお渡ししておくと、相続が始まったあとの手続きがスムーズになりやすいでしょう。また、2通目以降を追加で預ける場合は、最初に申請した遺言書保管所にしか申請できない点にご注意ください。
6. 遺言書の様式のルール(A4・余白・片面)
制度を利用する場合、民法上の要件に加えて、次のような様式のルールがあります。実務では、この余白のルールでつまずく方が少なくありません。
制度で求められる様式
- 用紙はA4サイズ。文字が読みづらくなる模様や彩色のないもの(一般的な罫線は差し支えありません)
- 余白は最低でも上5ミリ・下10ミリ・左20ミリ・右5ミリを確保し、余白部分には何も書かない
- 片面のみに記載する(裏面には何も書かない)
- 複数枚になる場合はページ番号を記載する(遺言書が1枚のみの場合は記載不要)
- ホチキス等で綴じない
- 消えるインクは使わず、ボールペンや万年筆など消えにくい筆記具を使う
- 氏名はペンネームではなく戸籍どおりに書く
法務省のホームページでは、必要な余白を確保した遺言書の用紙例をダウンロードできます。印刷して使う場合は、プリンターの設定で余白がずれていないかを確認してから清書されると安心です。
7. 費用(手数料)はいくらか
手数料は収入印紙で納めます。主な手続きの手数料は次のとおりです。
主な手数料(令和8年7月時点)
- 遺言書の保管の申請:遺言書1通につき3,900円
- 遺言書の閲覧(モニター):1回1,400円
- 遺言書の閲覧(原本):1回1,700円
- 遺言書情報証明書の交付請求:1通1,400円
- 遺言書保管事実証明書の交付請求:1通800円
- 保管の申請の撤回・住所等の変更の届出:手数料不要
公正証書遺言では、財産の額などに応じて公証人手数料がかかります。費用面だけを見れば保管制度のほうが抑えやすい一方、内容についての助言を受けられるかどうかという違いがあります。
8. 令和8年3月の省令改正で変わったこと
令和8年(2026年)3月2日に「法務局における遺言書の保管等に関する省令」が改正され、制度が利用しやすくなりました。あまり知られていない改正ですので、これから利用される方は押さえておくとよいでしょう。
主な改正内容
- DV被害者等の住所・本籍の非表示措置が新設:遺言書情報証明書や閲覧モニターに住所・本籍を表示しない措置を申し出られるようになりました。保管の申請と同時にも、すでに預けている遺言書についても申し出ができます
- 請求書の記載事項・添付書類の省略の拡大:指定者通知がされている場合など、法務局側で遺言者の死亡が記録されている一定の場合には、死亡年月日の記載や除籍謄本などの添付を省略できる範囲が広がりました
- 様式の簡素化:申請書・届出書・請求書の記名欄が削除され、遺言書が1枚のみの場合はページ番号の記載が不要になりました(これまでの様式も引き続き使用できます)
非表示措置の対象になるのは、証明書やモニター画面に表示される住所・本籍などの情報です。遺言書そのものの記載は原則として対象外とされているため、表示させたくない住所や本籍を遺言書の本文に書かないよう注意が必要です。
9. 高知県幡多地域の方はどこの法務局へ
保管の申請ができるのは、遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所です。加えて高知県では、令和5年5月29日から管轄が拡大され、これらのいずれかが高知県内にある場合は、県内すべての法務局(遺言書保管所)で保管の申請ができるようになっています。
幡多地域の方の窓口の目安
- 高知地方法務局四万十支局(四万十市右山五月町3番12号 中村地方合同庁舎/電話 0880-34-1600)が、四万十市・土佐清水市・宿毛市・幡多郡黒潮町・大月町・三原村を管轄しており、遺言書保管の事務を取り扱っています
- 予約は「法務局手続案内予約サービス」から24時間受け付けているほか、平日9時から17時までの電話・窓口でも可能です
- 提出書類を電子メールで事前チェックしてもらえる試行は、高知県内では本局と須崎支局のみの取扱いです。四万十支局は対象外のため、様式は事前によく確認してから来庁されることをおすすめします
- 高知地方法務局では、遺言や相続についての無料出張説明会も受け付けています
窓口の取扱いや管轄は変更されることがあります。お出かけ前に高知地方法務局のホームページか電話でご確認ください。
10. 公正証書遺言とどちらを選ぶか
「保管制度を使えば公正証書遺言は要らないのか」というご質問もよくいただきます。どちらが良いかは一律には決まらず、ご事情によって判断が分かれます。
選ぶときの考え方の目安
- 費用を抑えたい、自分の言葉で書きたい、体力的に窓口へ行ける → 保管制度を活用した自筆証書遺言が向いている場合があります
- 財産の種類が多い、相続人の間で意見が分かれそう、書く内容に不安がある → 公証人が関与する公正証書遺言を検討する価値があります
- 字を書くことが難しい、外出が難しい → 公正証書遺言では公証人の出張という方法もあるため、まず相談してみるとよいでしょう
いずれの方式でも、後から書き直すことはできます。「完璧なものを一度で」と考えて先延ばしにするより、今の意思をいったん形にしておくほうが、結果的にご家族の助けになることが多いように感じます。
11. 遺言書を書く前に整理しておきたいこと
法務局は内容の相談には応じられません。そのため、窓口に行く前の準備が実質的にいちばん重要です。次の3点を整理しておくと、書く作業がぐんと楽になります。
事前に整理しておきたい3つのこと
- 相続人になるのは誰か:戸籍をたどって法定相続人を確認します。想定外の相続人が判明することもあります
- どのような財産があるか:不動産(登記事項証明書)、預貯金(通帳)、有価証券などを一覧にします。財産目録の下地にもなります
- 誰に何を渡したいか:推定相続人には「相続させる」、それ以外の方には「遺贈する」と書き分けます。遺言執行者を決めておくと手続きが進めやすくなります
当事務所では、高知県幡多地域(宿毛市、四万十市、土佐清水市、黒潮町、大月町、三原村)を中心に、行政書士業務として相続人調査・財産調査・遺言書の文案作成サポートなどを行っています。「何をどこまで書けばよいか分からない」という段階からのご相談で構いません。相続・遺言の手続き全般については、相続・遺言手続きサポートのページもあわせてご覧ください。
なお、相続税の課税関係は税理士、相続登記は司法書士の専門分野です。当事務所では必要に応じて、これらの専門家と連携しながら進めています。
12. よくある質問
Q. 自筆証書遺言の保管費用は3,900円ですか?
遺言書の保管の申請にかかる手数料は、遺言書1通につき3,900円とされています。収入印紙で納付します。なお、保管の申請の撤回や住所等の変更の届出には手数料はかかりません。
Q. 法務局に預けると家庭裁判所の検認は不要になりますか?
この制度を利用して保管された遺言書については、家庭裁判所の検認は不要とされています。自宅などで保管していた自筆証書遺言の場合は、原則として検認の手続きが必要です。
Q. 家族が代わりに預けに行くことはできますか?
保管の申請ができるのは遺言者ご本人のみで、代理人による申請や郵送による申請はできないとされています。また、手続きには事前の予約が必要です。
Q. 法務局は遺言書の内容が有効かどうかを確認してくれますか?
法務局が確認するのは、民法上の要件や制度上の様式といった形式面です。内容に関する相談には応じられないとされているため、内容が適切かどうかは別途、専門家にご確認いただく必要があります。
Q. 預けた遺言書の内容を書き直したいときはどうすればよいですか?
内容を変更したい場合は、いったん保管の申請を撤回して遺言書の返還を受け、内容を書き直したうえで改めて保管の申請をする方法が案内されています。撤回そのものは遺言の効力とは関係がないとされています。
Q. 宿毛市に住んでいますが、どこの法務局で手続きできますか?
宿毛市を管轄しているのは高知地方法務局四万十支局(四万十市)です。加えて、住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかが高知県内にある場合は、令和5年5月29日から高知県内すべての遺言書保管所で申請できるとされています。ただし、すでに他の遺言書を預けている場合はその保管所への申請となります。
13. まとめ:制度は「形式」を守ってくれるが「中身」は自分で整える
自筆証書遺言書保管制度は、自宅保管の弱点だった紛失・改ざん・見つけてもらえないという不安を、3,900円という比較的抑えた費用で補える制度です。家庭裁判所の検認が不要になる点も、残されるご家族にとって大きな意味があります。
一方で、法務局が見てくれるのは形式面までです。誰に何を残すのか、遺留分をどう考えるのか、遺言執行者を誰にするのかといった中身は、ご自身で、あるいは専門家と一緒に整える必要があります。制度を上手に使うほど、事前の準備の重要性が増すともいえます。
このコラムは、自筆証書遺言書保管制度に関する一般的な内容を整理したものです。実際の手続きや必要書類の取扱いは、ご家族の構成や財産の状況、個別の事情によって異なります。制度や様式の詳細は法務局へ、遺言の内容については専門家へ、あわせてご確認ください。
参考情報
はしざき社会保険労務士・行政書士事務所
代表:橋崎 正(社会保険労務士 / 行政書士 / 1級FP技能士)
お問い合わせ電話:090-4977-0845